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ベトナム調査(7)

 ベトナム北部の今回の調査では,最後に中国との国境近くの東部の山へ行きました.途中,点々と調査をしながら移動しました.山の高い所ではあいにく天気が悪く,低地での調査が多くなってしまいました.調査地がどういう環境か,目につくチョウを見れば見当がつくことがあります(写真はイナズマチョウの仲間,上がオス,下がメス).種名がわかるわけではないのですが,どういうグループのチョウがどれくらい翔んでいるかで見当をつけます.低地では良い環境がほとんどなく,それは日本でも同様です.最後はハノイで1泊して帰途につきました.今回,新しいデータをたくさん取ることができました.お世話になったベトナムの方々に感謝です.

イナズマチョウのオス
イナズマチョウのメス
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ベトナム調査(6)

 昼間は歩き回って調査,夜(毎夜ではないが)はライトトラップで調査をしました.日本では見られないような昆虫も数多く見ることができました.中でも,オスの大顎がよく発達したコガネムシ類やキバヘビトンボ類には驚かされます.性選択が作用して進化したと考えられるこうした昆虫を見ることがなければ,進化のしくみに興味を持たないばかりか,実際にそうした選択が強く自然界には作用していることを認識できないかも知れません.

クワガタコガネの1種
クワガタコガネの別種
キバヘビトンボの1種

ベトナム調査(5)

 ベトナム北部中央の山村では5泊しました.その間に一度だけ朝市がありました.最奥の村ですが,さらに山奥に点在する家から買い出しに人が集まって来ます.この日は,朝一番にぶつ切りにした肉も売られていました.我々はベッドがある小さい部屋に泊まるのですが,食事は村の人と同じものを食べます.朝は,斜め向かいの小さな家に人々が集まって来ます.そこでは,米粉を薄く広げて蒸して,少しひき肉を入れて丸めたものが出されます.これを暖かいスープにつけて,そこに刻んだネギとスダチの搾り汁を入れて食べます.かまどには山で集めてきた薪が燃やされ,板壁は隙間だらけで,段ボール箱をつぶしたものが随所に貼付けられています.昼は携帯食として,菓子とペットボトルの水,それと缶コーラーで済ませます.夕食は宿で出される一湯二菜(ときに三菜)とごはんです.通常,野菜(というか葉)を煮るか炒めたもの,蒸した骨付鶏肉,卵焼きでした.こうした素朴さもまた旅の醍醐味で,そこの自然の豊かさと連動して記憶されていきます.

朝市
米粉を蒸したもの
かまど

ベトナム調査(4)

 ベトナム北部の中央(やや東より)には,標高の高い所に,樹木の多い山並みがあります.そこの渓流には水生動物が多く,昨年と同じようにコブイモリ?を見ることができました.昨年のものは腹側の黒い模様が糸状でしたが(昨年のものはこれ),今回のものは黒い斑紋が太くなって赤い部分が円状になっていました.日本のイモリに比べてずいぶん大きく,重量感があります.川沿いは人に利用されることが多く,こうした貴重な動物が滅びることがないよう祈るばかりです.

ベトナムの山並
コブイモリ?背面
コブイモリ?腹面

ベトナム調査(3)

 ベトナム北西部の山中に3泊した後,今度は北部中央の山をめざして大移動です.木のない山(山頂まで延々と水田あるいはとうもろこし畑)ばかりを見ながら,車は山を越え谷を渡り進みます.道ばたで,とうきびジュースを飲んで休憩.さとうきびの茎を圧搾して汁を搾り,氷を入れて飲みます.素朴な清涼感があり,暑い中,喉が潤います.

サトウキビの圧搾機
とうきびジュース

ベトナム調査(2)

 今回の調査は,ドライバーを含めベトナムから3名,日本から2名,合計5名の小回りのきく体制でした(最後の3日間は,さらに中国から2名が加わりましたが).まずは,ベトナム北西部の山中に滞在し,調査開始です.ここの裏山には,テナガコガネの1種が生息していました.生きたオスを初めて見ましたが,大きくて,その迫力はなかなかのものです(オスだけ前脚が長くなります).
調査開始
テナガコガネの1種

ベトナム調査(1)

 5月10日から24日まで,ベトナム北部で野外調査を行って来ました.まずはハノイに到着.喧噪の中,ベトナム料理を楽しんで,明日からの野外調査に備えました.
ハノイ市街
ハノイ夕食1
ハノイ夕食2

ミケヘビトンボ

 紹介するのが少し遅くなりましたが,4月29日付けで,ミケヘビトンボ属全体の分類の見直しとその形態に基づく系統関係についての論文が出版されました(Systematics and biogeography of the dobsonfly genus Neurhermes Navás (Megaloptera: Corydalidae: Corydalinae). Arthropod Systematics & Phylogeny 73: 41-63. 2015年).この仲間の成虫は,黒い翅に白い水玉模様がついていて,前胸および腹部の腹面が鮮やかな黄色となっています(下の写真はベトナム北部産).昼間ひらひらと飛翔する不思議なヘビトンボの仲間です.中国南部からインドシナ,マレー半島,スマトラ,ジャワ,それからインド南部に分布しています.全部で7種に整理しましたが,まだまだ未調査の場所があり,さらなる調査が必要です.
ミケヘビトンボ属

裏山

 連休は天気が良かったので行楽地はたくさんの人でにぎわったことでしょう.今年は大型連休でしたが,遠出をせずに近くの山を散策する程度で終わりました.2日には,裏山でキンランを見つけました.ちょっと道をはずれて森の奥へ入っていったときに,斜面の下のそれを思わず踏みつけてしまいそうになりましたが,何とか踏みとどまることができました.

キンラン
キンランの花

進化的 trade-off が配偶行動の多様性を生む?

 これまで6回にわたって連載してきたように,ヘビトンボ亜科の昆虫のオスにとって,武器を発達させることとプレゼントをメスに贈ることの両方を行うことは難しいようです.広翅目は,センブリ科とヘビトンボ科からなり,ヘビトンボ科にはクロスジヘビトンボ亜科とヘビトンボ亜科が含まれます.センブリ科とクロスジヘビトンボ亜科の仲間には,オスの武器も婚姻贈呈も見られません.またヘビトンボ亜科の中で最も原始的と考えられるムカシヘビトンボ属(南アフリカのみに生息)にもこれらは認められません.婚姻贈呈が見られるのは,いずれもアジアに生息するヘビトンボ属,ミケヘビトンボ属,コガネヘビトンボ属,カブトヘビトンボ属です.一方,オスの武器が発達しているのは,アジアに生息するキバヘビトンボ属,アメリカに生息するオオアゴヘビトンボ属,コブトリヘビトンボ属です.中央アメリカに生息するミドリヘビトンボ属にはこのいずれも発達していません.武器と婚姻贈呈の間には資源の trade-off の関係があるため,このように複雑で多様な配偶行動が進化したと考えられます.とくに婚姻贈呈を行わなくなると同時に,3つのグループ(属)で独立にオスどうしの争いが進化して,オスの大顎やこぶが大きくなっています.しかし,婚姻贈呈が発達すると,オスのコストが大きくなり,交尾頻度が減少します.一方,その利益のために,メスの交尾頻度は上昇すると予想されます.そうなると,オスどうしの争いが引き起こされにくくなります.オスどうしの争い(武器の発達)が進化するためには,婚姻贈呈が一端白紙撤回される必然性があった可能性も考えられます.この点については今後の課題ですね(以上この論文の紹介でした).
トレードオフ

武器をもつか,プレゼントを贈るか,欲張れないオス

 婚姻贈呈物として大きなゼリー状の精包を渡すヘビトンボのオスの内部生殖器はとても大きくなっています.精巣と輸精管とは別に,複数の付属腺が集合した大きな内部生殖器を発達させています(写真の矢印).ここにゼリー状物質を貯えて,交尾のときに精子の容器とともに排出して大きな精包を形成するのです.この装置に,オスは多くの資源(栄養やエネルギー)を投資していることがわかりますね.一方,大顎を大きくしたオオアゴヘビトンボ属のオスの内部生殖器はどうなっているでしょうか.下の写真にあるように何とも貧弱です.オオアゴヘビトンボ属では,オスはゼリー状物質をメスに渡しません.つまり,婚姻贈呈はしないというわけです.大顎を大きく発達させ,それを維持するために,オスは多くの資源を投資しています.武器をもつことと,プレゼントを贈ることは trade-off の関係にあり,欲張って両方を手に入れることはできないようです.
ヘビトンボの内部生殖器
オオアゴヘビトンボの内部生殖器

ヘビトンボの精包と栄養貢献

 日本に生息するヘビトンボ(ヘビトンボ亜科)という種は,交尾の際に,メスに大きな精包を渡します.ヘビトンボと同じくらいの大きさのタイリククロスジヘビトンボ(クロスジヘビトンボ亜科)という種では,精子の入った容器のみの精包をメスの尾部に付着させますが,それと比べると,ヘビトンボの黄色いゼリーのからみついた精包がいかに大きいかがよくわかります(下の写真).黄色いゼリーはオスが体内で自ら合成して貯えたものです.交尾のときにこんなに大きい精包を作ると,次の交尾に備えて,またせっせとゼリーを合成して貯えなければなりません.実際にオスが再交尾可能になるまでには2日もかかります(Animal Behaviour, 45: 343-349).一方,メスは,交尾回数が増えると生涯産卵数が増加します(Ecological Research, 13: 283-289).そこで,オスにローダミンB(タンパク質合成時に取り込まれる)という蛍光物質を飲ませ,そのオスと交尾したメスの卵巣内の卵にそれが検出されるかどうかを調べました.その結果,この蛍光物質は,確かに,オスが飲み,その体内で合成したゼリー状物質を交尾のときにメスに渡し,メスはそれを食べて消化吸収し,体内で卵を発達させるための栄養として使っていることが明らかとなりました.

ヘビトンボとタイリククロスジヘビトンボの精包

ヘビトンボの婚姻贈呈

 ヘビトンボ亜科の仲間には,婚姻贈呈を行う種がいます.日本に生息するヘビトンボという種では,オスは,交尾のときに,メスの腹部の末端に,大きな精包と呼ばれるゼリー状のかたまりを付着させるのです(Japanese Journal of Entomology 60: 59-66).交尾が終わると,オスはじっとしてしまいますが,メスはこの精包をむしゃむしゃと食べ始めます(下の写真).精包の中心部には精子の入った容器があって,その中の精子はメスの腹部の中に移送されます.メスはゼリー状物質を食べ終えると,精包中心部の固い芯を引き抜いて尾部のクリーニングをします.メスは一生の間に何回も交尾します.その都度,大きなゼリー状物質を食べることができます.ヘビトンボ類の成虫は肉食性ではなく,樹液や果実の汁を吸います.樹液や果汁にはあまりタンパク質が含まれていませんが,オスからプレゼントされるゼリーにはおそらくタンパク質が含まれいます.つまり,この大きな精包を渡すことが,オスからメスへの高価なプレゼントというわけです.

精包を食べるヘビトンボのメス

ヘビトンボ類に見られるもう一つの武器

 ヘビトンボ亜科の仲間では,キバヘビトンボ属(アジアに分布)とオオアゴヘビトンボ属(南北アメリカに分布)において,オスの大顎が長くなることを紹介しました.しかし,下の写真のように,オスの頭部の縁が左右にうちわ状に突出するという奇妙なヘビトンボが知られています(メスでは突出しない).中央アメリカ付近にのみ生息するこの奇妙なヘビトンボの仲間を,コブトリヘビトンボ属と仮に呼んでおきましょう.コブトリヘビトンボ属のこの「こぶ」の機能についてはまったくわかっていません.しかし,オスの体サイズとこぶの大きさの間には,キバヘビトンボ属やオオアゴヘビトンボ属のオスの大顎の長さと同じように,正のアロメトリーの関係が認められました.つまり,オスのこぶのような突起は,性選択に関係する形質として,オスどうしの争いに使われるのではないかと推測されます.コブトリヘビトンボ属のオスでは,大顎ではなく,頭部の縁が大きくなるという独自の進化が起こったというわけです.いつの日か,この「こぶ」を使ってけんかをするコブトリヘビトンボのオスをこの目でぜひ確かめてみたいものです.

コブトリヘビトンボ属のオス

武器をもつヘビトンボ類

 ヘビトンボ科に含まれる昆虫類は大きく2つに分けられます.一つがクロスジヘビトンボ亜科,もう一つがヘビトンボ亜科です.昨日紹介した論文(これ)は,後者のヘビトンボ亜科について,オスが武器をもつか,プレゼントを贈るかを調べたものです.アジアに分布するキバヘビトンボ属のオスには長い大顎が発達しています(昨日の写真).一方,南北アメリカに分布するオオアゴヘビトンボ属のオスにも長い大顎が発達しています(下の写真).しかし,よく見ると,大顎の形態が違います.キバヘビトンボ属では我々がよく知っているクワガタムシのオスにそっくりな大顎ですが,オオアゴヘビトンボ属では,大顎がスルッと筒状に長くなっています.これらの大顎はオスどうしのけんかに使われますが,分子系統樹で比較をすると,両者のオスの大顎の伸長は,それぞれ独立に進化したと考えられました.
オオアゴヘビトンボ属のオス
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