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高尾山観察会の発表会

 今日は,5月6日に行った高尾山観察会(ここに紹介)の発表会を行いました.大学院生向けの講義である「生態学特論」では,受講者全員に,一人一人何か一つ生態や環境にかかわるテーマを決めてもらい,実際に高尾山に行って観察をし,その成果を口頭発表してもらいます.10人の学生が,スライドを使って発表しましたが(発表7分,質疑応答3分程度),スライドの作り方,発表の仕方,発表の内容ともとてもよくできていて,得るものが多い発表会となりました.重箱の隅をつつくような雰囲気はなく,次々と現実的な(検証できそうな)疑問が湧いてくる場がもてたと思います.こうした末広がりの発想法が,実は何をするにもとても重要なのです.

写真は現場で撮影したウスバカゲロウの幼虫(すり鉢状の巣の直径の頻度分布が3峰性で,それぞれが幼虫の1齢,2齢,3齢に相当するという発表から)
蟻地獄3齢
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ヒガシニホントカゲ

 先日,知り合いの方より,トカゲが噛み付きあっているという画像をもらいました.八王子市郊外の山林で撮影されたそうですが,確かに噛み付いていますね.これは,ヒガシニホントカゲのオスどうしのけんかです.春になって繁殖期になると,オスどうしのけんかが始まります.口を大きく開けて,相手の顔の側面に噛み付きます.大きく口を開けて強く噛み付くオスの方が強そうですね.実は,オスの方が,メスよりやや頭でっかちなのはそのせいだと考えられます.ひなたぼっこをしているトカゲを見たら頭部の大きさをよく見てみましょう.頭が大きいと感じたらそれはオスです.
 ところで,いわゆるトカゲの分類は最近変更されていて,北海道から近畿地方にはヒガシニホントカゲが,伊豆半島と伊豆諸島にはオカダトカゲが,近畿地方から九州地方にはニホントカゲが生息することになっています.近畿地方と伊豆半島周辺にはそれぞれ分布の境界があって,どのトカゲなのか同定に注意が必要です.
ヒガシニホントカゲ

キスジラクダムシ

 日本のラクダムシ目の昆虫は,ラクダムシ科とキスジラクダムシ科という2つのグループに分けられます.ラクダムシ科としては,日本では,前回紹介した,ラクダムシという種のみが知られています.キスジラクダムシ科としては,これまでキスジラクダムシという1種だけが日本から知られていたのですが,四国産は,東日本産のキスジラクダムシとは別の種と考えられ,最近,新種として記載されました(この論文).四国産のものに対しては,まだ和名がないのですが,現時点ではキスジラクダムシと四国産の種のあわせて2種がいることになっています.
 ラクダムシ(下の写真の向かって左側)とキスジラクダムシ(右側)の成虫はよく似ていますが,キスジラクダムシの方が,頭部と前胸部がより細長くなっていること,翅の縁紋が2色にぬり分けられていること(下の写真の矢印)などで簡単に区別できます.四国の種については,外見はキスジラクダムシと同じですが,雌雄の交尾器に顕著な違いがあります.ラクダムシは海岸から山地まで広く生息していてよく見かけるのですが,キスジラクダムシは山地性でなかなか見ることができません.西日本(紀伊半島,近畿,中国,九州)のキスジラクダムシは学術的に貴重です.とくにオスのキスジラクダムシがこの地域で見つかると大発見につながるかも知れません.九州では今が,その他の地域ではこれからが成虫の出現期です.宝探しに挑戦してみてはどうでしょうか.
キスジラクダムシ

ラクダムシ

 首都大学東京のキャンパスには自然な森が残されています.そこにはいろいろな昆虫類が生息していますが,ラクダムシもその一つです.下の写真は,先日(5月22日)キャンパスで見つけたラクダムシのメスです.腹部末端に長い糸のようなものがありますが,これはメスだけにある産卵管です.メスより一回り小さくて,産卵管がないのがオスです.
 ラクダムシというのは,駱駝虫のことで,横から見ると動物の駱駝(ラクダ)のシルエットのように見えることからドイツ語でそう呼ばれていたことに由来します.脚を立てて,地面から体を少し浮かせた姿勢で,頭と前胸をもたげると,頭がラクダの顔に,前胸がラクダの首に,中胸・後胸・腹部がラクダの胴体から尾に,脚がラクダの足に相当します.英語ではsnakeflyというのですが(おそらく頭胸部を含めて細長いため),日本では別の昆虫をヘビトンボと呼んだので,ドイツ語の方の呼び方を利用したのではないかと想像されます.ちなみに,日本ではヘビトンボ類はよく見られる昆虫の一つですが,ヨーロッパにはヘビトンボ類は分布していません.
ラクダムシ

北海道のセンブリ類(3)

 前回,北回り(極東ロシア経由)で日本列島に侵入して来たと思われるセンブリとキタセンブリは,津軽海峡に阻まれて,北海道から本州へと分布範囲を広げることができなかったのではないかということを紹介しました.これを裏返せば,南回り(朝鮮半島経由)で日本列島に侵入してきた動物は,津軽海峡に阻まれて,東北地方より先の北海道にまで到達できないでいると言えます.ツキノワグマは,ヒグマと同じようにユーラシア(東部)に分布していますが,ヒグマよりは温暖な地域に限られています.そのため,ヒグマが北回りで侵入して北海道で止まっているのに対し,ツキノワグマは南回りで侵入して九州から本州までで止まっているというのが定説です.センブリ類にも,九州から本州にかけて分布するのに,北海道にはいないという種が確かにいます.
 しかし,北海道に生息する3番目のセンブリ類であるウスバセンブリは,本州にもいます.ウスバセンブリはなかなか見つからない種で,センブリやキタセンブリより季節が遅くなってから成虫が出現します.翅脈が少し単純で,頭部が面長になっているのが特徴です.本州にも北海道にも分布するということは,津軽海峡が分布の制限となる前(つまりとても古い時代)から生息し続けているか,あるいは,移動分散力が強い(自ら飛んだり,風で飛ばされやすい)かが関係していると思われます.

センブリの蛹(土の中の球状の蛹室から取り出した状態)
センブリ蛹

北海道のセンブリ類(2)

 日本では北海道にだけ分布するセンブリとキタセンブリ,同所的に生息することが多いのですが,それらの幼虫の区別は簡単です.幼虫は,池沼や沢の底をすくうと採れます.黒くて背中の中央に淡い色の菱形の模様があればセンブリの幼虫(写真上),褐色で背中に模様がなければキタセンブリの幼虫です(写真下).
 センブリとキタセンブリが,日本では北海道だけにしかいないのは,ヒグマが日本では北海道にだけしかいないのと同じ理由だと考えられます.ユーラシア大陸の比較的寒冷な地域に生息する動物は,かつて陸続きになった時代に,極東ロシアから北海道に移動して来たと考えられます.その時,津軽海峡はすでに海として存在しており,これに阻まれて,動物は渡島半島より先に行けなかったのではないかというわけです.比較的深い海である津軽海峡は,こうして多くの動物の分布の境界になっており,この分布境界をブラキストン線と呼びます.(つづく)
センブリ幼虫
キタセンブリ幼虫

北海道のセンブリ類(1)

 植物のセンブリと昆虫のセンブリの違いについては,昨年にこのブログで説明しました(ここ).今回紹介するのは,もちろん昆虫のセンブリです.北海道には,3種のセンブリ類が生息しています.センブリ,キタセンブリ,ウスバセンブリの3種です(日本産水生昆虫-科・属・種への検索,東海大学出版会,2005年刊,379-386ページ).飼育中(幼虫は18℃,前蛹から成虫は23℃)のセンブリとキタセンブリの幼虫が蛹化し,成虫が羽化してきました.両種とも,ユーラシア北部に広く分布し,日本では北海道のみに分布しています.
 外観からセンブリ類の種を同定することは難しいことが多いのですが,センブリとキタセンブリの2種の成虫の区別は比較的容易です.翅脈が翅の根元から先端まで同様に太いのがセンブリ,翅脈が翅の先端に向かうにつれて細くなるのがキタセンブリです.また,オスでは,触角の根元が太くなって歪むのがセンブリ,すっとなめらかに伸びるのがキタセンブリです.しかし,メスでは両種とも触角はすっとなめらかに伸びます.2種は同所的に生息するので,一つ一つ種を同定しないと,思わぬミス(1種しかいないと思い込む)を起こしかねません.(つづく)
センブリ2種

不思議な南アフリカ

 広大なアフリカ大陸なのに,アフリカの中ではなぜか南アフリカ付近だけで見つかる昆虫類がいます.ヘビトンボ類もそうした昆虫類の代表で,気の遠くなるような時間の中で,地史に影響を受けながらも滅びることなく存続してきた証となります.そう思うと,たとえ干涸びた一個の標本といえどもその価値は大きいですね.
 南アフリカ産のクロスジヘビトンボ類の一つの属についての系統分類に関する共同研究がonline firstとして最近出版されました(この論文).南アフリカ全体は日本より広いのですが,この仲間の棲んでいる地域は限られていて,日本と同じくらいの範囲です.それにもかかわらず,多くの種に分化していて多様性が高くなっています.この地域では,山脈と水系が複雑に入り組んでいて,そうした地形や地史が,水生昆虫であるヘビトンボ類の種分化に関係したのかも知れません.
南アフリカ

高尾山観察会

 連休最終日に,大学院生8名と高尾山に行ってきました.大学院の講義「生態学特論」の一環としてこの野外観察を行いました.各自が,何か一つテーマを決めて,それに関する観察を行ってもらい(採集は行わず,写真撮影や直接観察をもとに),あとで発表会を開くというものです.
 京王高尾山口駅に集合し,リフトを使って登り,薬王院経由で山頂へ行った後,裏側の日影沢におりて,小仏川沿いにJR高尾駅まで歩くコースです.蟻地獄を見つけては,そのすり鉢状の穴の直径を測定する学生,花があると,そこにどんな昆虫が来ているか写真を撮る学生,植物の葉にできる虫こぶを探す学生,もし人がいなければ高尾山の自然は本来はどうなんだろうと考える学生,生態学における競争の証拠探しをする学生などがいて,楽しいハイキングでした.目的があると山歩きはさらに楽しくなりますね.

高尾山

首輪ユスリカ(5)

 クビワユスリカにとって,ヘビトンボの幼虫に便乗して安全に暮らすためには,胸部の腹側(脚の付け根)が一等席と言えます.しかし,ここには,ほとんどの場合,1匹のクビワユスリカの幼虫しか付いていません.別のクビワユスリカの幼虫が来たら,いったいどうなるのでしょうか.1匹のヘビトンボの幼虫には,複数の(2匹以上の)クビワユスリカの幼虫が同時に付いている場合があります.その場合には,1匹が胸部の腹側に,他方が腹部の総状鰓のところに付いていることがわかりました(この論文).ちょうど,椅子取りゲームのような感じです.椅子を取り損ねた幼虫は腹部に待機しているようです.不思議なことに,胸部に陣取っていた幼虫が蛹化して羽化すると,いつの間にか,そこに別の幼虫が来ているのです.試しに,クビワユスリカの幼虫をそっと取り外して,別のヘビトンボの幼虫の腹部に移しかえてみる実験を行いました.クビワユスリカがまったく付いていないヘビトンボの幼虫に移しかえてやると,翌日には,ちゃんと胸部の腹側に付いています.すでにクビワユスリカが胸部に陣取っているヘビトンボの幼虫に移しかえてやると,いつまでも腹部から移動できないでいます(ときには,便乗しているヘビトンボの幼虫自身に食べられてしまうこともあります).
 お互いにどうやって相手を認識しているのか不思議でなりません.不思議と言えば,クビワユスリカの幼虫は,自分が便乗しているヘビトンボの幼虫が脱皮すると,あっという間に脱皮したての色の白い幼虫に乗り移っているのです.幼虫の脱皮は胸部の背中側が割れて,そこから新しい幼虫が出ます.胸部の腹側にいたクビワユスリカの幼虫は,いったいどうやって脱皮を察知して,乗り移るのでしょうか.人間には想像もできないような鋭い感覚があるのでしょうね.
          クビワユスリカのメスの成虫
クビワユスリカメス成虫

 

首輪ユスリカ(4)

 ヘビトンボの幼虫の胸部側面に作られた繭の中の蛹は,3日ほどすると,浮かび上がります.ヘビトンボの幼虫に触れることなく浮かび上がらないと食べられてしまう危険があります(そのために胸部側面や脚に繭を作る).水面に達すると,クビワユスリカの成虫が羽化し,飛び立ちます.クビワユスリカの成虫の体色はグレーで,翅は透明です(下の写真はオス).しかし,腹部の色には地理的変異があって,日本産のオスでは腹部全体がグレーですが,台湾やマレー半島産では腹部の途中が黄白色になって奇麗です.成虫の生態については不明で,交尾や産卵行動は一切わかっていません.産下された卵塊から孵化した1齢幼虫が,どのようにヘビトンボの幼虫を探し出して便乗するのかもわかっていません.
 ともかく,クビワユスリカの一齢幼虫が,ヘビトンボの幼虫に便乗できたなら,胸部腹面に定位することがもっとも安全です.ヘビトンボの幼虫は捕食者なので,体表をごそごそ歩いていると(刺激すると),あっという間に大顎で捕獲されて食べられてしまいます.また,背面は石の隙間に潜るときなどにこすれてしまうので危険です.ヘビトンボの幼虫はとても柔軟で,くるりと体をまいて,大顎でえらをしごいて体表の掃除も行います.脚を使って頭部背面をごしごし掻いたりもします.しかし,胸部腹面は,大顎が届きません.脚で掻くこともできません.ここには3対の脚があるので,石の表面と擦りあうこともありません.ここが一等席なのです.(つづく)
クビワユスリカ成虫

首輪ユスリカ(3)

 ヘビトンボの幼虫の胸部側面に作られた繭の中のクビワユスリカの前蛹は,3日ほどで,下の写真のように蛹となります.透けて見える繭の中に,幼虫の脱皮殻と蛹の両方があるのがわかりますか.さらに3日ほどで成虫が羽化します.このユスリカは,実はこれまで誰も知らなかった未記載種でした.ヘビトンボの幼虫の体表でしか見つからないので,気づかれないのも当然です.そこで,その生活史,分布などと合わせて,1998年に新種として報告しました(この論文).
 いったん繭を作ってしまうと,クビワユスリカはもう移動できません.この時に,ヘビトンボの幼虫が脱皮してしまうとどうなるのでしょうか.ヘビトンボの幼虫の脱皮殻は,水に流されて石の隙間に引っ掛かったり,水際に流れ着いたりするでしょう.一回だけですが飼育下でそのようなことが起こりました.しかし,ヘビトンボの脱皮殻に付いたクビワユスリカの蛹からはちゃんと成虫が羽化しました.もう一つの危険性として,繭を作ってしまった後,ヘビトンボの幼虫が蛹化のために岸に上陸してしまう可能性があります(土の中に穴を掘ってもぐる).この場合には,おそらくユスリカはうまく羽化できないはずです.しかし,このリスクは極めて低いと思われます.ヘビトンボは幼虫のまま,川の中で丸2年から3年も過ごします.これに対して,クビワユスリカの繭(前蛹+蛹)の期間は6日間に過ぎません.上陸直前6日間に繭を作ってしまうとは,クビワユスリカにとって確かに悲劇ですが.(つづく)

クビワユスリカ蛹

首輪ユスリカ(2)

 昨年11月26日のブログで紹介しましたが,ヘビトンボの幼虫には,クビワユスリカの幼虫が付着していることがあります(ここ).クビワユスリカの幼虫は,ヘビトンボの幼虫の体表に付いている付着藻類などを食べて成長します.充分に成長した幼虫は,定位置である胸部腹面から胸部側面に移動して,繭を作り,その中で前蛹(蛹化直前の幼虫)となります(下の写真).時には,ヘビトンボの幼虫の脚に繭を作って前蛹となることもあります.
 クビワユスリカの幼虫にとっては,河川の底生動物群集の上位に位置する獰猛なヘビトンボの幼虫の体表で暮らすことによって,安全な場所を確保できます.小さいユスリカの幼虫は多くの動物の餌となってしまいますが,ヘビトンボの幼虫が天敵に食べられてしまうことはごく稀です.また,水位の変動などによって水が干上がってしまったり,激流に流されてしまったりすることも,ヘビトンボの幼虫に付いていれば回避できます.一方,ヘビトンボの幼虫にとってみれば,小さいユスリカの幼虫が付いていても,おそらくいっこうにかまわないでしょう.だから,片利共生と言えるかも知れません.(つづく)

クビワユスリカ前蛹
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Author:首都大動物生態
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