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ツマグロオオヨコバイとアタマアブ

 アタマアブというハエの仲間がいます.かなりの種が記載されていますが,この仲間の種を同定することはなかなか難しいのが現状です.名前のとおり,大きな複眼が付いていて,頭部が大きく見えます.アタマアブの仲間の幼虫は,昆虫の体内(体腔)に寄生していて,最後に,宿主の体に穴をあけて出てきます.出て来たウジ状の幼虫は,物陰で蛹化し,羽化します.
 温暖な地域ではもう成虫出現の最盛期を終えたと思いますが,日本にはツマグロオオヨコバイ(下の写真)という昆虫が普通に見られます.首都大学東京の構内にもこれがたくさんいます.しかし,このツマグロオオヨコバイに,アタマアブの1種が寄生していることはあまり知られていないのではないでしょうか(この論文).成虫越冬したツマグロオオヨコバイは春の間に交尾と産卵を終えて死にたえます.その卵が孵化して,幼虫が成長して,新成虫は8月を過ぎると見られるようになります.成虫は植物の汁を吸って精巣や卵巣を少し発達させ,そのまま越冬します.体腔内に寄生しているアタマアブの幼虫は,秋から翌年の春にかけて徐々に成長して,春に体から出て蛹化します.アタマアブは必ず1匹の成虫には1匹しか寄生していません.首都大構内では,雌雄とも,ツマグロオオヨコバイの50%以上が寄生されていました.アタマアブに寄生されたツマグロオオヨコバイのメスでは,最後まで卵巣が未発達ですが,オスでは精巣内で充分に精子を作ることができます.もちろん,幼虫脱出後はいずれにしても死んでしまうのですが.
ツマグロオオヨコバイ
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アサヒナカワトンボとニホンカワトンボ(9)

 これまで8回にわたって紹介してきたように,核DNAであるITS1領域の塩基配列を比較すると,日本のカワトンボ属は明確に2種に区別することができました.しかし,細胞の中にあるミトコンドリアDNAの塩基配列を比較すると,2種はまったく区別できず,全体として,東日本,中央日本,西日本という地理的な遺伝的傾斜が認められるだけでした(この論文).
 これはいったいどういうことでしょうか.ミトコンドリアDNAを用いて,分子系統学的研究を行う方がむしろ普通です.考えられる原因はアサヒナカワトンボとニホンカワトンボがとても近縁であるため,種間交雑によって妊性のある雑種ができる(できた)ということです.このとき,一方の種のミトコンドリアDNAが他方の種の集団中に入り込み,固定されてしまうことがあります(遺伝子浸透).例えば,下の図にあるように,ニホンカワトンボの集団にアサヒナカワトンボのメスが入り込んで交雑すると,雑種第1代が生じます.この雑種個体の核のDNAは半分がニホンカワトンボの,半分がアサヒナカワトンボのものです(だから外部形態も中間的になることが多い).しかし,この個体のミトコンドリアDNAは必ずアサヒナカワトンボのものです(卵経由でのみ子に伝わるため).そこはニホンカワトンボの集団内なので,その雑種個体のメスはその後ニホンカワトンボのオスと交配を何世代も繰り返します.その結果,核のDNAはニホンカワトンボのものに完全に入れ替わってしまいますが,ミトコンドリアDNAは最初のアサヒナカワトンボのメスのものが残るというわけです.逆の場合,つまりニホンカワトンボのメスがアサヒナカワトンボの集団に入り込んで交雑するということも起こりえます.こうして,同じ地域でみると,ミトコンドリアDNAに種間差がなくなってしまうのです.

カワトンボ浸透交雑

アサヒナカワトンボとニホンカワトンボ(8)

 アサヒナカワトンボとニホンカワトンボの幼虫(ヤゴ)を外部形態から区別するのは比較的容易です(核DNA(ITS1)の塩基配列によって区別される日本産カワトンボ属の幼虫の形態.Tombo 47: 13-24. 2004年).ヤゴは,水中の溶存酸素を効率よく取り込むために,尾の先に葉状の3枚のえらを有しています.左右のえらを側尾鰓と呼びますが,この形に差があります.先端部が丸く,先が少し突出するのがアサヒナカワトンボ,先端部に切れ込みがあり,三角形上に大きく突出するのがニホンカワトンボです(下の写真).関東地方の伊豆半島から山梨県にかけて分布する交雑由来と考えられる集団(分類上はアサヒナカワトンボ伊豆個体群として扱われる)では,これらの中間型となっています.
 ヤゴの尾鰓はちぎれても再生します.しかし,再生した尾鰓の形態はアサヒナカワトンボでもニホンカワトンボでも全体に丸みが強くなり,区別が難しくなります.再生した鰓は正常のものより相対的に小さく,模様も不鮮明になる傾向があります.そのような再生鰓をもつヤゴの同定は避けた方が無難です.(つづく)
カワトンボ幼虫

アサヒナカワトンボとニホンカワトンボ(7)

 制度上の煩雑さがあり,和名,学名はかなり変更されましたが,核DNAのITS1領域の塩基配列に基づく分類方法自体には問題はなさそうです.
 従来の分類方法と大きく違う点は,関東平野にあります.関東平野では,アサヒナカワトンボとニホンカワトンボが不規則な分布をしています.さらに,両種の交雑由来としか考えられない中間的な形態をもつ個体群が存在します(分類上,現時点では,アサヒナカワトンボ伊豆個体群として取り扱われています).これらを外形で同定する確実な方法は今のところありませんが,DNAで判定された詳細な分布図が示されています(下図,論文としては例えば日本生態学会関東地区会会報 58: 50-52 (2009)神奈川県立博物館研究報告(自然科学)39: 25-34 (2010)).また,茨城県と栃木県ではニホンカワトンボのみが知られており,千葉県では(Tombo 47: 41-46. 2004年),房総半島の南半分にアサヒナカワトンボのみが,それ以外の場所にはニホンカワトンボのみが分布しています.群馬県は今後調査が必要な地域です.(つづく)

カワトンボ分布図

アサヒナカワトンボとニホンカワトンボ(6)

 分類というのは人の所業なので,歴史の研究と似ている点があります.1975年と1976年に,日本の研究者によって,日本産カワトンボ属の分類に関する論文が3編出版されました.アジア全域のカワトンボ属の分類を念頭において,沖縄を除く日本の全都道府県から得られた3247個体もの外部形態を比較して得られた成果です.その中で,彼は,日本産はMnais pruinosaであるとしました(つまり種の学名としてM. strigataは使わない).それ以降,トンボ類の研究分野では,このM. pruinosaという学名が使われてきました.一方,水生昆虫学の分野(主にヤゴを対象とする)では,カワトンボとしてM. strigataがその後も長く使われ続けたという経緯があります.
 我々が2004年にDNAの塩基配列に基づく2種の分類方法を提唱した際に採用した学名であるM. strigataは,M. pruinosaに修正されるべきであるという論文がヨーロッパの研究者らによって2回にわたって出版されたことは,この連載の(3)〜(5)で紹介しました(ここから).そこには,今から140年も前に書かれた1行ほどのコメントで第一校訂者になり得るのかという意外性がありました.命名規約上,真にそれらが同物異名であるのかという理由や考察などは一切求められていないということを再認識させられたものです.
 一方,上にあげた1975年から1976年にかけて出版された3編の論文によって,すでにM. pruinosaが採用されているのだから,これを使うのが当然という見方もありました.ヨーロッパ人研究者による2つ目の学名修正指摘論文(一つ目のものより長編で詳細)で,この誤解がとかれています.「His nomenclatoric usage was correct, although his grounds for favour of the name pruinosa were not based on the rules of the taxonomic nomenclature.」この文のheというのは上にあげた1975年から1976年の3編の論文の著者のことです.彼の学名の処理は,国際動物命名規約に基づいて行われたわけではなく,これに準拠してM. pruinosaを正当化するわけにはいかないのです.学名の取り扱いは,時として,本当にややこしいですね.(つづく)

左2つ:ニホンカワトンボのメスの多型(無色型と全体有色型.型の組み合わせは地域によって異なる).右一つ:アサヒナカワトンボのメス(無色型のみ).
カワトンボメス多型

アサヒナカワトンボとニホンカワトンボ(5)

 我々が採用したM. strigataに対して,ヨーロッパの研究者は,2005年12月1日に,再び,学名修正の指摘論文を出版しました(Notulae Odonatologicae 6: 66).M. strigataという学名を使用している我々の論文が他に3編あることを挙げ,1年前にすでに指摘したように,M. strigataは不適切な学名であるので,早くM. pruinosaに変更するべきであるという内容です.
 DNAの塩基配列に基づく成果は,4つの論文として一斉に投稿されました.それぞれは,順次,投稿先の学術雑誌の公正な審査を経て受理(出版許可)されていきました.受理された原稿は,その後,数ヶ月から1年余りしてやっと印刷物として出版されます.いったん受理された原稿をこちらの都合や周囲の意見で勝手に変更するわけにはいきません.それを許すと学術論文の厳密さや公正さを欠いてしまいます.そのため,当然,最初の4つの論文は,M. strigataの学名で出版されました.
 そこで,学名修正が再び指摘されたというわけです.もちろん,最初の学名修正の指摘論文が出た直後から,こちらは,それに従って,学名をM. pruinosaとして論文を作成しています.これらの関連論文を時系列に並べてみると以下のようになります.最初の4つの論文はほぼ同時に出版されています.ヨーロッパの研究者による学名修正の再指摘の論文は,実際には,すでに学名が修正されているにもかかわらず出てしまった形になっています.お互いのこのタイミングの悪さは,論文が受理されてから出版されるまでに長期間を要するからなのです.(つづく)
カワトンボ論文表

アサヒナカワトンボとニホンカワトンボ(4)

 前回紹介した学名の問題,つまりMnais strigataではなく,M. pruinosaの方が適切であるという指摘は,新種として記載したSelysが,記載後20年後の1873年の論文の中で,M. strigataはM. pruinosaの変異に過ぎないと取り扱ったからなのです.実は,同一出版物の中にあるシノニム(同物異名)の学名に関しては,記載された順で学名の優先権が自動的に決まることはなく,それらは同時出版の学名とみなされます.この場合,後の研究者がどちらを使うかによってその学名が決定されることになっています(第一校訂者による決定).我々は,1913年の小熊の論文(M. pruinosaではなくM. strigataを選択)がこの第一校訂者による決定と考えていたのです.ところが,もっと前の1873年の論文の中で,当のSelys自身が,Mnais strigataではなくM. pruinosaを選択しており,これを真の第一校訂者とみなさなければならないというわけです(Selysは,さらに10年後の1883年の論文の中では,再びM. strigataとM. pruinosaを種として同列に並べてあります.ただし,M. strigataの項にM. pruinosaのraceの可能性を指摘してはありますが).
 結局,日本には,アサヒナカワトンボ(Mnais pruinosa)とニホンカワトンボ(M. costalis)の2種が分布するということに落ち着きました.国際動物命名規約は,万国動物命名規約として1901年に採択されたのが最初で,その後の規約が4回改訂されて現在に至っています.当初は,頁優先権が勧告として盛り込まれており(今ではこの概念は用語集からも削除されている),小熊(1913)が最初の頁に出てくるM. strigataを有効名としたことはよく理解できます.一方,そのような国際規約がなかった時代のSelys(1873)が,記載の順番としては後に出てくるM. pruinosaを選んだというのもわかります(他の理由があったにせよ).(つづく)

アサヒナカワトンボのオスの多型(向かって左から橙色の部分有色型,褐色の部分有色型,無色型.他に翅が白濁する型もあるが,これらの型の組み合わせは地域によって異なる)
アサヒナカワトンボ多型

アサヒナカワトンボとニホンカワトンボ(3)

 DNAの塩基配列に基づいて区別されたカワトンボ属の2種がそれぞれアサヒナカワトンボとニホンカワトンボという和名に落ち着いた経緯について,前回紹介しました.生物の名前にはもちろん学名が使われます.動物の学名は,国際動物命名規約に従って取り扱わなければなりません(最新ものは第4版で1999年発行,2000年発効).カワトンボ属2種の学名について,2004年12月1日付けの我々の論文(Odonatologica 33: 399-412)では,Mnais strigataとMnais costalisとしました.しかし,前者については,M. pruinosaの方が適切であることが,2004年12月30日付けのヨーロッパの研究者らの論文で指摘されました(Tombo 47: 12).
 我々が,M. strigataとした理由は,(1)今から160年前の1853年にSelysによって出版された論文の中で,M. strigataとM. pruinosaがこの順で新種として記載されていること,(2)100年前の1913年に,小熊による日本産カワトンボ類を再検討した論文の中で,M. pruinosaはM. strigataのシノニム(同物異名)とされていることの2点でした.それなのにどうしてM. pruinosaの方が,M. strigataより適切な学名と言えるのでしょうか?(つづく)

ニホンカワトンボのオスの多型(向かって左から部分有色型,無色型,全体有色型で,型の組み合わせは地域によって異なる)
ニホンカワトンボ変異

アサヒナカワトンボとニホンカワトンボ(2)

 前回,核DNAのITS1と呼ばれる部分の塩基配列に基づき,日本のカワトンボ(Mnais)属が2種に区別できることを紹介しました.一方の種は,関東地方を除くと,従来4種として扱われていたうちのニシカワトンボとヒウラカワトンボに,もう一方の種はオオカワトンボとヒガシカワトンボに相当します.
 2004年12月30日付けで出版された和文論文で,2種の和名については,前者をカワトンボ,後者をオオカワトンボと呼ぶことにしました(日本産カワトンボ属の分類的,生態的諸問題への新しいアプローチ (1) 総論.Aeschna 41: 1-14).しかし,その3年後の2007年に出版された日本蜻蛉学会和名検討委員会の報告の中で,この呼称では過去の報告にある種の和名と今後の報告で使われる種の和名が重複し,混乱が生じるという理由などで,まったく新しい和名として,前者をアサヒナカワトンボ,後者をニホンカワトンボとすることが推奨されました(Tombo 49: 46-47).分類の仕方が変更されるたびに,新しい和名を用いると,次々と和名が変更されてしまうという欠点はありますが,混乱を防ぐという点ではその通りです.(つづく)

東京都産アサヒナカワトンボ(交尾中)
アサヒナカワトンボ交尾中

アサヒナカワトンボとニホンカワトンボ(1)

 4月も中旬になると,いよいよ沢沿いにアサヒナカワトンボやニホンカワトンボがひらひらと舞う季節の到来です(下の写真は長野県産ニホンカワトンボのオス).晩春から初夏にかけてよく目につくこの2種のカワトンボ類について,2001年からDNAの塩基配列に基づく系統解析を本格的に開始しました.
 その結果は,2004年12月1日付けで論文として掲載されました.Hayashi, F., Dobata, S. and Futahashi, R. (2004) Macro- and microscale distribution patterns of two closely related Japanese Mnais species inferred from nuclear ribosomal DNA, ITS sequences and morphology (Zygoptera: Calopterygidae). Odonatologica 33: 399-412.動物の細胞の中には,核とミトコンドリアの両方にDNAが含まれていますが,そのうちの核のDNAのITS1と呼ばれる部分の塩基配列を比較すると,日本のこの仲間は明瞭に2種に区別できるという内容です.成虫の外部形態もこの2種のグループ分けと矛盾のないものでした.(つづく)

長野オオカワトンボ

ムササビのお母さん

 昨日の朝,ムササビを見ることができました.ムササビは夜行性なので,昼間は樹洞などにもぐって寝ているのですが,朝9時にもかかわらず,ムササビが巣箱の穴から,ずっと顔を出していました.この巣箱の中は常時ビデオ撮影されています.顔を出しているのは母親で,2匹の子を育てている最中なのです.ここは東京都のはずれにある丘陵地帯で,ムササビの行動などの調査が行われています.その様子を見学させてもらったというわけです.眠そうな表情が何とも良いですね.

ムササビ

動く蛹

 飼育中のタイリククロスジヘビトンボが蛹になりました.ヘビトンボ類では,充分に成長した幼虫が岸辺に上陸して,石や倒木の下の地面に穴を掘りもぐります.この穴(蛹室)の中で,幼虫はC字状に体を横たえていますが(この状態の幼虫を前蛹という),1週間ほどすると脱皮して蛹になります.ヘビトンボとヤマトクロスジヘビトンボの幼虫は土の中にもぐって球状(閉鎖型)の蛹室を作るので,河原で石や倒木をひっくり返しても,蛹室は土中にあるので見つけることは困難です.しかし,タイリククロスジヘビトンボの幼虫は,皿状の蛹室を作るので,石や倒木をひっくり返すと簡単に見つけることができます(下の写真は飼育下での蛹ですが,石をとって写したものです).
 ところで,昆虫の蛹と言えば,動けないものと相場が決まっています.アゲハチョウなどの蛹に触れると左右にぴくぴく動くのを知っている人も多いと思いますが,ヘビトンボ類の蛹は,何と,大顎で噛み付くこともできるし,這うこともできるし(上手ではありませんが),蛹室を再構築することもできるのです.地表というのはアリやムカデなど,蛹にとっての天敵が多いところです.こうした侵入者に対して身を護ることは重要ですね.

タイリク蛹

タイリククロスジヘビトンボ

 ちょっと調べたいことがあって,タイリククロスジヘビトンボの幼虫を少しだけ飼育しています.北海道,本州,四国,九州(ただし島嶼部と南西諸島は別)には,ヘビトンボ科としては,ヘビトンボ,ヤマトクロスジヘビトンボ,タイリククロスジヘビトンボの3種が普通に生息しています.ただし,北海道からはヘビトンボの記録しかありません.また,九州には,タイリククロスジヘビトンボによく似た韓国産の種が,古い2個体の標本に基づいて記録されています(ここ).
 普通に見られるヘビトンボ科3種の幼虫は,下の写真にあるように,簡単に区別できます.ヤマトクロスジヘビトンボの幼虫は頭の先(人でいうとちょうど鼻にあたるような部分)が白いのに対し,タイリククロスジヘビトンボの幼虫ではそこが黒くなっています.脚の長さも違いますね.とくに前脚を比べるとわかりやすいのですが,急流に棲むヘビトンボの幼虫がもっとも長く,よどみに棲むヤマトクロスジヘビトンボの幼虫がもっとも短くなっています.タイリククロスジヘビトンボの幼虫は,両者の中間的な環境に棲む傾向があります.
ヘビトンボ類幼虫3種

アオサギの繁殖コロニー

 2013年3月30日付けで,動物生態学研究室の学生が行ったアオサギの個体識別に基づく研究成果が論文として出版されました(個体識別したアオサギの繁殖コロニーへの執着性と長期的な繁殖履歴(英文).山階鳥類学雑誌 44 (2): 79-92)(ここ).この論文は,2年後にはネット上で自由に閲覧できることになります.
 繁殖コロニー(いわゆるサギ山)のアオサギに脚環をつけてそれらを9年間にわたってできる限り追跡した結果をまとめたものです.巣立ちをした幼鳥が翌年以降どれくらいの割合で生まれ育ったコロニーに帰ってくるのか,成鳥は繁殖期には毎年同じコロニーに来て,同じ雌雄がつがいを形成するのか,などのデータが示されています.大型で長命な野生動物の調査を行うのはとても大変です.最近はこうした調査があまり行われなくなってきました.たとえ研究効率が悪くても,長期間継続することによって,少しづつその生態がわかってくるという研究の醍醐味を知ることも重要ですね.
アオサギコロニー

ニッポンアミカモドキの生物学

 最近,知人が,「ニッポンアミカモドキの生物学」という本を自費出版しました.表題にあるニッポンアミカモドキ(アミカモドキ科)だけでなく,カスミハネカ,カスミハネカに近縁の別の種(いずれもハネカ科),およびカニアミカ(アミカ科)の4種について,多数の生態写真と観察結果を図示して,彼らの生活史を記述してあります.いずれも珍しい種で,これらの貴重な写真やデータが盛りだくさんです.A4版で96ページの本です.もし購入したい人がいましたら,このブログで知らせて下さい.

下の写真はカニアミカの幼虫(本より抜粋).
カニアミカ幼虫

東南アジアの渓流の水生昆虫(3)

 ベトナム南部の樹林内を流れる渓流の瀬の水生昆虫を調べてみると,甲虫類Eulichadidae科に属する比較的大きな幼虫が目につくこと,半翅類コバンムシ科に属する扁平な幼虫や成虫がいろいろ見つかること,蜻蛉類ミナミカワトンボ科などのヤゴが多いことなどが,日本の渓流の瀬の水生昆虫群集との大きな違いであることにすぐ気づきます.
 このことは,2004年に出版された英語の本「Freshwater Invertebrates of the Malaysian Region」 (C. Yule and H. Yong eds, Academy of Sciences Malaysia, Kuala Lumpur, Malaysia)の中の水生昆虫序論の章(Hayashi F., Insecta: introduction. pp. 372-383)にまとめておきました.この本は入手が難しいのですが,この水生昆虫序論の部分のpdfファイルは,Google scholarでうまく検索すると無料で見られます.日本のように,東南アジアでも環境教育の一環として今後水生昆虫を調べる機会が増えていくことを期待して,水生昆虫全体の検索を,幼虫と成虫に分けて図示してあります.もし,この図を使って,東南アジアの子供や学生が水生昆虫のソーティングをしていれば,こんなにうれしいことはありません.

マレー本

東南アジアの渓流の水生昆虫(2)

 前回,東南アジアの渓流の水生昆虫群集の特性として,甲虫類の Eulichadidae 科の幼虫が多いことをあげましたが,コバンムシ科 (Naucoridae) が多いことも,東南アジアの瀬の水生昆虫群集の大きな特徴です.日本でも,河川の瀬に,ナベブタムシが生息していることがあります(稀にトゲナベブタムシも生息,もう見つからないかも知れませんがカワムラナベブタムシも).一方,コバンムシは,日本では1種しか見られず,それは池沼にしかいません.ところが,東南アジアに行くと,渓流の瀬には,いろいろな種のナベブタムシ類やコバンムシ類がいっぱいいます(下の写真は南ベトナム産).流れの速いところの石の表面に,とても扁平な体型のこれらのコバンムシ科の幼虫と成虫が棲んでいます.
 彼らは,プラストロンという空気の薄層を腹側に持っていて,それに含まれる酸素を使って呼吸します.水が流れているところでは,水中の溶存酸素濃度が高いので,水中からプラストロンへと酸素が絶えず入り込んできます.だから,止水棲のコバンムシ,ゲンゴロウ,ガムシのように,水面にまで出て新鮮な空気と入れ替える必要がありません.

ベトナムナベブタムシ

東南アジアの渓流の水生昆虫(1)

 3月末に行ったベトナム南部の調査では,樹林内を流れる小さな川の瀬の水生昆虫の様子も観察しました.石ころがある瀬の川底には,様々な水生昆虫が集まっています.そうした瀬で,甲虫類のEulichadidae科の幼虫がよく目につきました(下の写真).比較的大きいこの仲間の幼虫(体長数cm)が多く見つかることが,東南アジアの水生昆虫群集の特徴の一つです.脚が短くて流されてしまいそうな体型をしていますが,瀬に棲んでいて,水中の落葉をバリバリ食べています.充分に成長した幼虫は,岸辺に上陸して穴を掘って蛹化します.
 実は,以前に,マレー半島のウル ゴンバックに足繁く通って,この仲間の1種である Eulichas incisicollis の生活史と生態を調べたことがあります(Hayashi F. 1995. Eulichas incisicollis (Coleoptera: Eulichadidae), an important decomposer of leaf litter in Asian tropical stream communities. 信州大学理学部附属諏訪臨湖実験所報告9: 25–28).飼育下で大きな成虫が羽化したときのうれしさは今でもよく覚えています.

Eulichas幼虫
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