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ベトナム南部

 この1週間,ベトナム南部の森林で,昆虫の調査を行って来ました.ベトナム南部は比較的なだらかな山が連なるため,そのほとんどが,山頂まで,ゴム園,果樹園,松林となってしまっています.そんな中で,2次林ですが,自然林に近い山腹で,調査を行うことができました.標高900 mなので,気温もそれほど高くありません.
 熱帯樹林では多様な昆虫が生息しているはずですが,多くの昆虫を見ることは容易ではありません.こうした環境での生物の多様性をもっとも実感できるのが,実は,セミの鳴き声と鳥の鳴き声なのです.姿はほとんど見えませんが,セミと鳥の鳴き声の多様さには本当に驚きます.それほど多くの種が同じ森の中に暮らしているのです.もちろん樹種の多様性は言うまでもありませんが.

南ベトナム
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超小型水中発信器(2)

 超小型水中発信器を胸に背負ったヘビトンボ類の幼虫を,岸辺に放してから,ずっとその位置を記録して行きます.川底にいるのですが,水面上から柄の先につけたループアンテナを使って,もっとも発信音が大きくなる所を特定します.その真下に,発信器付きの幼虫が潜んでいます.こうすると,川を荒らしたり,幼虫に触れることなく,彼らの自然な行動を追跡できます.幼虫は昼間にはけっして移動しませんでした.夜になると移動する個体がいますが,まったく動かない個体もいます(待ち伏せ型の捕食者).ヤマトクロスジヘビトンボの幼虫は,川底を横断して反対側の岸辺に行くことがありますが,昼間はいつも岸辺にいました.ヘビトンボの幼虫は,流れの速い所を移動して,流れの緩やかな岸辺や淵に近づくとUターンすることもわかりました.
 ヘビトンボ類の幼虫は,知る人にはすぐ理解してもらえると思うのですが,とても頑丈で力強い生きものです.背中に扁平な発信器が付いたくらいでへこたれる虫ではありません.水中での発信器の重さは,185 mgです.幼虫の体重(湿重)は,1〜2 gです.
 これらの成果は,Kontyu 56: 417-429 (1988), Freshwater Biology 21: 489-496 (1989), Oecologia 78: 468-472 (1989), 採集と飼育 50 (7): 302-306 (1988), アニマ No. 213: 45-48 (1990) に掲載されています.

ヘビトンボテレメ

超小型水中発信器

 前回,前々回に,お尻に呼吸管をもつヤマトクロスジヘビトンボの幼虫は,いざとなったらお尻を水面にあげて空気を吸えるように浅い所(水際)に生息し,呼吸管のないヘビトンボの幼虫は,流れの速い所に生息して脇腹のえらから溶存酸素を効率よく取り入れるということを紹介しました.両種の生息場所の違いを明確にするにはどうすれば良いでしょうか.ランダムに,あるいは一定間隔で採集をして,2種の分布図を描けば違いが検出できるはずですね.
 しかし,もっとダイナミックにそれを調査するために,超小型水中発信器を幼虫の背中に取り付けて,それを追跡するという方法をとりました.1986年に初めて行なったので,もう27年も前のことになります.発信器の中には水晶発振子が入っていて,発信器ごとに固有の周波数の電波が出るようにしてあります.だから,川の狭い範囲の中で,何匹でも幼虫を個体識別しながら同時に追跡することができます.また,電池も埋め込まれていて,20日間にわたって連続追跡が可能です.(つづく)

ヘビトンボ発信器

流れが好き

 前回,水中に棲むヤマトクロスジヘビトンボの幼虫が,息が苦しくなると逆立ちをして,お尻にある呼吸管を水面に出して空気を吸う行動をとることを紹介しました(ここ).しかし,同じヘビトンボ類でありながら,ヘビトンボという種の幼虫には呼吸管がありません.それでは,ヘビトンボの幼虫は,息が苦しくなるとどうするのでしょうか.
 ヘビトンボの幼虫には,第1腹節から第7腹節にかけて,脇腹に7対の総状のえら(総状鰓)が付いています(下の写真の矢印).このえらは可動式で,開いたり萎んだりします.ヘビトンボの幼虫は,水中の溶存酸素が少なくなってくると,えらをリズミカルに伸縮させます.溶存酸素が少ないほど,伸縮速度があがります.もともと総状にすることで表面積を大きくして,できるだけ多くの溶存酸素を取り込めるようにしてあるのですが,これを動かして換水することによって,さらに酸素を取り込む効率を上げているのです(この論文).我々が,激しい運動をすると,息を切らすのと似ていますね.でも,これでは疲れてしまいます.どうすれば疲れないかというと,もともと川の流れの速いところに棲めば良いのです.そこでは,水が常に流れているので,えらは自動的に換水されます.ヤマトクロスジヘビトンボの幼虫が水の浅い所に生息し,ヘビトンボの幼虫が河川の瀬(流れている所)に生息するのは,それぞれの呼吸特性から説明できそうです.
ヘビトンボ呼吸

逆立ち上手

 以前にヤマトクロスジヘビトンボの幼虫を紹介しました(ここ).この幼虫は水中で暮らしています.とくに,源流部や細流などの浅い川や,谷戸のわき水で見かけることが多いと思います.幼虫の腹部第8節の背中側には,短いストローのような1対(合計2本)の管が備わっています.この管は,呼吸管と呼ばれ,先端から空気を取り込むことができます.
 水中にはあまり酸素がありません.だから陸上と比べ,水中に暮らす生物は,よく酸欠になってしまいます.水中では水にとけ込んでいる酸素,つまり溶存酸素,を体表からとりこんで呼吸の酸素源とします.効率よく溶存酸素を取り込むためには,体表面積を大きくしたり,体表に常に新鮮な水があたるような工夫が必要です.一方,溶存酸素が少なくなると,空気中の酸素を利用する手もあります.ヤマトクロスジヘビトンボの幼虫は,いつもは体表から溶存酸素を取り込んでいるのですが,低酸素状態になってくると,よいしょと腹部末端を持ち上げて,呼吸管から空気を取り込むことができるというわけです.しかし,この幼虫は泳げません.目一杯逆立ちをしても呼吸管が水面に届かなければ,溺れ死んでしまいます.だから用心のために,日頃から浅いところに棲んでいて,いざとなると,ひょいとお尻を上げるのです(この論文).ボウフラやゲンゴロウとはちょっと違いますね.
ヤマト呼吸管

オオシロカゲロウ

 Biological Journal of the Linnean Society という学術雑誌の Early View として,共同研究で行ってきたオオシロカゲロウの分子系統地理学的研究が掲載されました(ここ).その内容は地方の新聞でも紹介されました(ここ).カゲロウという呼称は,脈翅目に属するウスバカゲロウやクサカゲロウなどと,蜉蝣目に属するヒラタカゲロウやマダラカゲロウなどの両グループに使われます.成虫が短命であることから,はかないもののたとえに使われるのは後者の蜉蝣目の方です.この蜉蝣目の中でも,とくに短命(1日)な種がオオシロカゲロウです.幼虫は,主に河川の中流域の河床に生息する水生昆虫です.初秋になると,一斉に大量に羽化し(翅がはえて飛び立つ),橋の街灯などに集まって,道路に雪が降り積もるように堆積することがあります.オスはメスよりやや小型です(下の写真).このオオシロカゲロウ,西日本と東日本で遺伝的に少し差があることがわかりました.
 論文というのは,雑誌に印刷されて出版されるのが普通です.ここではじめてみんながそれを見ることができるようになります.しかし,今では,early view とか online first とか呼ばれ,論文が受理されて体裁が整った段階で(まだ印刷される前に),インターネット上で誰もが見られるようになってきました.この段階ではまだページが書き込まれていませんが,早く情報発信をするという点ではとても便利ですね.

オオシロカゲロウ

水生昆虫談話会

 昨日(3月16日)は,毎月恒例の水生昆虫談話会の例会でした.水生昆虫談話会とは,水生昆虫に興味のある人たちが集まって研究紹介や情報交換を行なおうという目的で設立されました,最初は関東地方の人たちが中心に活動していましたが,今では会員は日本全国に広がっています.興味のある人は,水生昆虫談話会のホームページを見て下さい(ここ).
 水生昆虫談話会では,月に一度(通常は第3土曜日の午後3時から),関東地方で例会を開いています.首都大学東京は東京都立大学の頃より,よく例会の会場になりました.ずいぶん前の1982年5月8日に準備会がもたれ,翌月(6月12日)に第1回例会が開かれました.昨日は第370回例会でした.370/12=30.8ですから,毎月かかさず例会を開いて間もなく31年になろうとしています.老若男女が集まって,水生昆虫の分類や生態,水生昆虫群集の特性,河川や池沼の物質循環や保全などについて話しをしています.例会のあとは,お酒も交えて,さらに話がはずみます.

水生昆虫談話会

ボルネオのヘビトンボ類(2)

 前回は,ボルネオ島に生息する尾端の長いProtohermes属種群の論文が出版されたことを紹介しました(ここ).この種群を仮に「オナガヘビトンボ種群」と名付けるとすると,ボルネオ島には,実は「オミジカヘビトンボ種群」とも言うべき別のProtohermes属種群も生息しているのです(例えば下の写真の種など).後者については,すでに2008年に論文として発表されていますが(ここ),両種群は,翅の模様や色彩がよく似ています.尾端の長さが顕著に違うことから,2種群に分けてまとめることにしたのですが,この種群分けが系統を正しく反映しているかどうかについては,今後確かめなくてはなりません.また,尾端のこの長い構造の機能についてもまったくわかっていません.
 ところで,オナガ(尾長)という動物の名前に違和感はありませんが,オミジカ(尾短)という名前には,動物をよく知っている人でさえ違和感があると思います.オナガという言葉の入った動物名を3つすぐに言えますか.オミジカという言葉の入った動物名となると,これはもうお手上げですね.

ボルネオミジカオ

ボルネオのヘビトンボ類

 3月8日付けで,Zootaxaという英文誌に,ボルネオのヘビトンボ類の分類に関する論文が出版されました(ここ).長い尾端を有するProtohermes属の種群を整理して,2種を新たに新種として記載したものです.
 Protohermes属は日本から東南アジアにかけて広く分布するグループですが,不思議なことに,マレー半島,スマトラ島,ジャワ島などにはいません.ところが,ボルネオ島にはこの属が生息し,かつ,そこではとても多様に種分化しているのです.ボルネオ島のこの属の調査を始めたころは,どれを見ても種を同定することができませんでした.その理由は,未記載種が多かったことはもちろんですが,100年ほど前に記載されたまま誰も再検討をしていない種がいくつもあったからです.今回,多くのヨーロッパの博物館を回って,やっとそれらの問題を処理してまとめることができました.

ボルネオヘビトンボ

春のめざめ

 急に暖かくなってきました.雨が降らないので乾燥気味ですが,首都大学東京のキャンパス内のヒキガエルも目覚めの季節になったようです.ヒキガエルは早春に繁殖を迎えます.目覚めたヒキガエルは繁殖池の周りでオスとメスが出会い,メスの背中にオスが飛び乗ってペアーが形成されます.それにしても,眠そうな表情ですね.まだ少し早かったのかも知れませんね.

ヒキガエルペアー

日本生態学会第60回大会

 今日から9日まで,日本生態学会第60回大会が静岡県コンベンションアーツセンターにて開催されます.動物生態学研究室からは,今回の大会では2件のポスター発表を行ないます.一つはヒミズの巣穴利用様式,もう一つはオオムカデ類の分子系統地理に関する研究成果です.
 日本生態学会の全国大会は1年に1度開催されます.この大会には,多くの学生が集まり,多数の発表が行なわれます.ひょっとすると,いろいろな学会の中でも,もっとも平均年齢の低い(若い人の多い)全国大会かも知れません.
ムカデ

アリの巣の生きもの図鑑

 東海大学出版会から「アリの巣の生きもの図鑑」が出版されました.日本のアリ類(それからシロアリ類)と関わりをもって暮らしている生きものたちの生態写真集です.ほとんどの人にとって気付くことのない世界を,実に鮮明な映像で紹介しています.生物学では,一枚の写真がある現象の証拠としてまず重要です.この本には,そのような証拠写真が満載されています.
 世の中は狭いもので,この本の中には,撮影地の一つとして首都大学東京の緑地が使われています.3年くらい前に,虫好きの生命科学コースの学生が,キャンパス内でとんでもなく珍しい昆虫を見つけたと興奮気味に話していました.その昆虫がこの本に収録されているのです.もう一つ,私に関係することとして,ケカゲロウが収録されていることが特筆されます.この虫の生活史はまったく不明で,ぜひ幼虫を見つけて飼育をしたいものです.
 一つだけ注文をつけることが許されるなら,「自然のままに」という著者らの意に反するかも知れないのですが,展翅標本,展足標本,プレパラート標本,あるいは白地の生体写真を同時に示しておいて欲しかったと思います.42〜43ページのミツギリゾウムシ類の展足標本や44〜63ページのチョウ類の展翅標本は,やはりその虫の全体像を知ることと同定の上でとても役立つと感じます.169ページのケカゲロウの部分の余白に,もし下のような写真があったらどうでしょうか.
ケカゲロウ
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都立大動物生態

Author:都立大動物生態
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